【幽体離脱】南北戦争の兵士たちの霊
フォートローダーデールに留学をして8か月くらいが過ぎた頃、私は相変わらずアパートを転々としながら、バスや自転車で語学学校に通う日々を送っていた。
生活にも慣れ、英語も最低限の日常会話ならできるようにもなり、当時は「日本のような島国ではなく、大陸に永住したい」という願望もあって、フロリダ州の運転免許証を取ることにした。
フロリダの教習所は、日本のように練習用の車が用意されていない。
知り合いや友達に車で教習所まで連れて行ってもらって、その車を借りて教習所内を教官や友達などを乗せて走る。
テストも会話も、すべて英語だ。
日本では運転をしない「ペーパードライバー歴6年」の私だったが、左ハンドルで道幅や駐車場も広い場所では問題なく運転ができ、一発で合格だった。
無事に免許がもらえ、一度、体験してみたかった銀行に車で行ってみた。
「フォートローダーデールの銀行ATM」は、「ドライブスルー」になっている場所がある。
車を降りることなく、運転席の窓から「ATM」を操作できる。
なんだか「アメリカらしさ」を感じる体験だった。
屋根もない道路沿いにポツンと「ATM」があったりするから、暑い中、列に並ぶのがイヤで「ドライブスルー」ができたと聞いたことがある。
結局、免許を取ったものの、車を買って運転することが一度もなかった。
運転をしていると車道で「霊」と遭遇することが多かったからだ。
車道を歩く霊、車に乗り込んでこようとする霊・・・道路標識に霊にと見るところが多くなり、運転は私の神経を消耗させた。
その為、私の運転免許証は「身分証」としてだけ使われ、母や友達が遊びに来る時は、レンタカーを借りて、短期間だけ運転をした。
当時のアパートは、3階建てでプールと広い中庭があった。
1階の角部屋「1LDK」。
玄関を入ると壁も床も「白いタイル」が貼ってあって、暑い中、帰宅をしても家は涼しく快適だった。
しかし、この部屋が一番「霊」に悩まされた場所だった。
夕方、学校から戻り、ベッドで少し休もうと横になった。
空気の重さが変わり、「ごぉぉぉぉぉぉ!!」という耳鳴り。
「やっぱり来たか、この時間が」
しばらくすると黒い制服と帽子を被り、剣を持った男性の霊が次々と部屋に現れた。
その数は「100人以上」となり、部屋は男性霊達の興奮した声が反響し、何を言っているのかわからない。
中には、ドーベルマンのような「真っ黒な犬」を2頭連れていて、その犬も何かに向かって吠えたり遠吠えを繰り返していた。
住み始めて数日後から毎日のように夕方頃、彼らは現れる。
すでに5回以上は来ていたが、いつもなら「金縛り」だけで終わるはずが、この日は違っていた。
ベッドに仰向けだった私は、「金縛り」で動けない状態。
そこに「私の手足や体」を数人の男性霊に押さえつけられ、更に動けない。
その男性霊達からは、火薬や血・汗の臭いがした。
部屋の中に「色つきの映像」も重なってくる。
それは、たくさんの建物が崩れ、火が出ていて、人々が叫び、逃げ惑う映像。
また、私の部屋に現れている男性霊達が、剣や銃で戦っている映像。
押さえつけられてることで「私の体の痛み」と男性霊達からの「心の叫び」や「戦場の激しさ」などが伝わってきて、私は耐えることができず「この部屋を早く出ないと!」という危機感を感じた。
なんとか起き上がり、ベットを降り、すぐ目の前にある「戸のドアノブ」に触ろうとした。
「ん!? 全然、触れない」
不思議に思って「手」を見ると、透けている!!
驚いて振り返ると、ベッドの上には、先ほどと同じように数人の男性霊達に体を押さえつけられている「私がいた」。
「幽体離脱」だった。
初めての体験で驚いたのと同時に「体に戻れなくなったら大変」という思い。
誰かに力いっぱい体を引っ張られた感覚があり、気づけばベッドの私の体に戻っていて、また霊達を見上げている状態で、また痛さなどに耐えかねて「幽体離脱」。
こんなことを2~3回は繰り返しているうちに、私も落ち着きを取り戻し、気づいたことがあった。
たくさんの霊達は、戦場での思いを聞いてほしくて、私にすがって来ていたということ。
この制服を着た男性達が、「南北戦争の兵士」だということ。
私の「気づき」が男性霊達にも伝わったようで、ゆっくりと私の体から手を離していく者、部屋から去っていく者・・・そして、誰もいなくなった。
「金縛り」がなくなり、重く感じた空気も元に戻った。
私の呼吸は荒く、体は長距離を走ったような疲労感と汗、押さえつけられていた箇所は筋肉痛のようになっていて、しばらくはベッドから起き上がることができなかった。
でも、心は軽く清々しかった。
男性霊達の満足した様子が、伝わってきていたから。
この日を最後に、彼らが現れることはなかった。