「母方の先祖霊」現る
「アメリカでの盛り塩」からの続き。
私のルームメイトが体調を崩し、一時帰国している間、私は「1LDK」の部屋に一人住み続けるしかなかった。
部屋を借りているのは「ルームメイト」で、私は家賃を半分払い、部屋を使わせてもらっている身だったからだ。
一人暮らしになってみると、誰もいない部屋なのに、いつも視線を感じたり、霊がやって来たりで落ち着かず、よく気晴らしに散歩をしていた。
私が住んでいたアパートは「高級住宅地」の中にあり、大きな家が立ち並んでいて、どの家も芝生が綺麗に手入れされており、南国の植物が鮮やかに咲き、野生のリスが駆けまわったり、マンゴーが実っている木をもつ家も多く、たくさんの鳥が食べに来ていた。
ハロウィンになると、たくさんのカボチャや魔女・オバケの置物が芝生に置かれ、それがクリスマスの時期には、サンタクロースやトナカイにへと変わり、家全体を電球で飾る。
夜はライトアップされ、とても街並みが綺麗だった。
アメリカで最も私が好きな時期だ。
長期のクリスマス休暇の人も多くなり、家の裏から「自家用のクルーザー」で運河を通り、海に出てパーティーをする人達、昼間に海釣りへと出かけ、夕方には帰宅するクルーザーをよく見かけた。
そんなある日、いつものように近所を散歩していると、後ろから「聞きなれない音」が聞こえてきた。
振り返ってみる。
「はぁ~!? フロリダに騎士!?」
「真っ黒な馬」にまたがる「銀色の甲冑を着た騎士の霊」が、2~3メートル後ろにいた。
「騎士」は、ヨーロッパにいるというイメージを持っていた為、フロリダの風景の中で見る「甲冑姿」は奇妙だった。
甲冑をつけているから顔も体も全然わからず、しばらく待っても何も言わず、ずっと「騎士の霊」は馬にまたがったまま私を見下ろしていた。
仕方がないので私は歩き始めたが、後ろから「馬の足音」がついてくる。
結局、アパートの近くまで来て「騎士の霊」は消えた。
私が無意識のうちに「霊」を呼んでいるのか、それとも「霊」が私を見つけて寄ってくるのか、もうわからないくらい、どこに行っても「霊の存在」があった。
散歩から部屋に戻って少しベッドで横になっていると、また「中国人少女の霊」が現れ、生前に彼女が住んでいた家の中を案内される。
この「少女の霊」が私の住む部屋にやって来て、すでに2か月が経っていた。
いつものように「ピンクのパーティードレスを着た少女霊」の後ろをついていく。
すると突然、私の左側にあった「横長の窓」が音もなく開き、仙人のように「真っ白な長髪とあごひげ」、「紺色の作務衣」を着たおじいさんが窓から入ってきた。
「首輪をつけた白い子猿」を連れている。
あまりに突然で、おじいさんに聞きたいことはあったものの声が出ず、機会を逃し、先を歩いている「少女の霊」を追いかけた。
「肩に子猿を乗せたおじいさん」も私の後ろからついてきて、家の中を見学しているようだ。
リビングに続き、キッチンを見て、そこにある大きなガラス戸を開けて庭に出る。
「え!?」
その日は、庭の様子が違っていた。
いつもなら「青々と茂る木々」があったのだが、「枯れた大木」が一本あるだけだった。
その木の枝には、「無数の茶色のヘビ」が巻きつき、絡み合い、曇った空からは小雨が降り、ヘビの体を濡らしていた。
この時「少女の霊」の姿は見あたらず、この庭で「何が起こっているのか」理解できないまま、小雨の中、呆然と「枯れ木とヘビ」を見上げていた私の隣におじいさんが来て言った。
「この部屋に、このまま住んでいてはいけない。すぐに引っ越しをしなさい」
「引っ越しをしたいけど、ルームメイトが戻ってくるまでは、移動ができない」と回答をする私。
気がつくと、すべてが消えていて、ベッドに横たわっていた。
数日が経っても、おじいさんに言われたことが頭から離れなかった私は、ルームメイトが戻ってきたら、すぐに引っ越しができるよう「部屋探し」を始めることにした。
不動産屋に行って、気に入った間取り「1LDKの部屋」を実際に見せてもらう。
リビングは「20畳ほどの広さ」があり、その隣には3畳ほどのウォークインクローゼット、トイレと風呂が別々になっていて、日本円にして家賃5万円。
立地もよく、一目で「住みたい」と思った部屋だった。
不動産担当者に「この部屋を借ります」と言いかけた時、突然、「真っ黒な馬にまたがる騎士の霊」がリビング床の下から湧くように出てきた。
「この前、会った騎士!?」と心の中で叫ぶ私。
「一緒に、ここに住んでほしい」と「騎士の霊」の思いが伝わってくる。
あの散歩の時に出会ってから、「騎士の霊」は私を気に入ったようだった。
不動産担当者からすれば、急に一点を見つめ続け、無口になった私を不思議に思ったことだろう。
「騎士の霊」が出てくる前までは、「この部屋、良いね」としきりに言っていた私が、しばらく無口になり「180度」態度を変え、「この部屋に住むのは、無理です」と断ったことで不審に感じたに違いない。
「騎士の霊」によって「部屋探し」をする気力が一気になくなり、他に見せてもらうはずだった部屋の予定もすべてキャンセルをして、家に戻った。
その夜、「金縛り」で目が覚める。
住んでいた「洋室の部屋」には、すでに「四方が、ふすまに囲まれた和室の映像」が重なっていて、ベッドで寝ていたいたはずの私は、その和室の「布団」の中にいた。
「何これ。どうなってる!?」
和室は4畳ほどと狭く正方形で、薄暗かったものの、黄色がかった「ふすま」に鳥や花が描かれているのが見えた。
もっと部屋をよく見ようと体を横向きに変えた時、背後の「ふすま」が開き、誰かが入ってくる気配がした。
しかし、私の体は横向きのまま動けなくなり、背後が見れない。
しばらくすると、その「誰か」が私の背後から布団の中に入って来て、背中を撫でられた感覚があった直後、「手」が私の背中を貫き、心臓をギュッとつかまれた感覚となった。
「はっ!!」と息がつまる。
呼吸ができず、苦しさでもがこうとしても、体が動かない。
とても長い時間に思え、意識が遠のきそうになった時、「手」が心臓から離れた。
大きく息をすると、一気に酸素が入ってきて、心臓の鼓動は早く、体が動くようになった。
背後で男性の大きな笑い声。
起き上がり振り返ってみると、布団には「おじいさん」がいた。
骨と皮だけの細い小柄な体で、肌にはツヤがなく、顔にも深いシワが何本もあり、目だけが異様に大きく、生き生きとしていた。
髪の毛がほとんどなく、とても嬉しそうに笑っている口元は、歯も所々しかない。
「鳥のヒナ」を思わせる「おじいさん」だった。
その「おじいさんの霊」は、楽しそうに爆笑しながら、私に何かを言ったが聞き取れず、気づくと映像は消え、ベッドの上にいた。
数日後、私の父が初めて国際電話をかけてきた。
年に数回、メールはしていたが、父の声を聞いたのは「何年ぶりだろう」、とても久しぶりだった。
父も幼い頃より「数々の霊体験」をしており、また「予知能力」を持っていた。
私は父に「鳥のヒナのような男性霊に心臓をつかまれた話」をした。
すると、「やっと行ってくれたか、しんうえもんさん」と嬉しそうに言うのである。
「えっ、誰って!?」
「真右衛門さんだよ。こんな漢字の名前で、戦国時代に生きてた武士。お母さんの方のご先祖様で、お父さんの所にも、よく現れる」
私には、初耳だった。
しかも、私が「心臓をつかまれた理由」として、父の所に「一か月ほど前」から、「私が通学時に交通事故に遭い、瀕死の状態になっている未来映像」が届いていたと言う。
その為、よく父の所に現れていた「真右衛門さん」に「娘の命を救ってほしい」と「何度もお願いをしていた」ということを聞かされた。
かなり驚いたが「もしかして」と思い、私は「白い子猿をつれたおじいさんとの体験談」を父に語った。
「あ~、勝浦のじいさんか~」
やはり父は知っていた。
この「仙人のようなおじいさん」は「和歌山県の那智勝浦町」で昔、猿とともに過ごし、「行者(ぎょうじゃ)」をしていたとのこと。
私の「母方の先祖」は、元々、武士をしていたが戦に負けて故郷を捨て、後に「商売人となる者」と「行者や修行僧になる者」と分かれたようだ。
私は幼い頃より、時々、家の中で「行者や修行僧の霊たち」と会うことがあったが、今回、出てきた霊たちは、初めてだった。
たくさんの「霊体験」をして、疲れたり体調不良になったりする私を心配して現れてくれたり、「命を守る為」に出てきてくれた「先祖霊たち」。
日々、「様々な思いを持つ霊たち」に振り回される生活をする一方で、今回の先祖霊たちのように「私を守ってくれる存在」があることを実感した。
この出来事があってから、「守られていることの心強さ」を感じ、私の心は「根」が土にしっかりと張るように安定し、常に安堵感が得れるようになった。
そして「先祖霊」や「守護霊」などの更なる助けや導きを頂きながら、「目では見えない世界について」を体験し、知識を増やす努力をしながら、その後も充実した「フロリダ生活」を過ごしたのだった。