「霊」の言葉
フロリダの「フォートローダーデール」に住んで1年以上が経った頃、私は「一人暮らし」することを検討していた。
ホームステイに始まり、語学学校の寮、それ以降は様々なアパートを転々として、計20人ほどのルームメイトと暮らし、毎日が「修学旅行」のように楽しかった。
留学生同士での「ルームシェア」は、「男女問わず・年齢問わず」であることが多い。
私のルームメイトは、10代~40代の男女と幅広く、母国での職業も学生・医者・弁護士・エンジニアなど様々で、どの人も「英語の必要性」を感じての留学だった。
出身国の料理を食べさせてくれたルームメイトたち。
それはイタリア・ドイツ・ブラジル・スイス・タイなどの家庭料理で、初めて体験する味も多かった。
フランス出身のルームメイトは国から持参した「クレープ用のフライパン」でクレープを振る舞ってくれ、その時、小麦粉の他に「ソバ粉」でつくるクレープもあることを知った。
またスイスでは、4種類の公用語「ドイツ語・イタリア語・フランス語・ロマンシュ語」があり、住む場所によって話す言葉が違うことも知った。
ほとんどの留学生が何らかの宗教を持ち、それによって生活習慣や食生活も異なる。
同じ日本人でも「県」によって食文化の違いがある。
海外の人と住むことは、刺激的で驚くことも多く面白かった。
しかし私の場合、「ルームメイトと一緒に住む」ということは「霊」との関わりも増えるということ。
多い時には「5人のルームメイト」と暮らしていたが、海へ遊びに行って「海にいた霊」を連れて帰ってくる人、道端にいた「霊」を拾ってくる人、ルームメイト自身の「身内の霊」が出てくるなど、いつも最終的に私が対応することとなり寝不足の日々だった。
「何も見えていないルームメイトたち」は、気楽なものである。
「霊の言葉」は、「生きていた時の言語」で話す者もいれば、言葉など関係なく「テレパシー」で意思疎通ができる霊もいるが、ルームメイトの「身内の霊」は決まって前者だった。
ある日、夜中に起こされた気がして目を開けると、マットレスで寝ていた私の足元に片膝をたてて座る上半身裸のおじいさんがいた。
すぐに「ブラジル出身のルームメイトの祖父」にあたる霊だとわかった。
私が起き上がろうとすると、おじいさんは片手を前に出し「起き上がらなくていい」というような「しぐさ」をした。
そのまま仰向けで寝ていると、私の足元にいたおじいさんが、マットレスの上をすべるようにスーッと移動してくる。
そして、私のお腹の位置ぐらいの所でしゃがんだ。
「#$&%」
「ちょ、ちょっと待って!!おじいさん、何を話してるのか全然わかんない!!
英語は話せますか?」
「◇$%#&△」
おじいさんは、一生懸命に何かを伝えようと「ポルトガル語」で話をしてくる。
だが、私には何度聞いても理解ができず、毎回、発する単語も違うようで、何について話をしているのかさえ不明だった。
おじいさんからの感情を読みとろうとしても「必死さ」のようなものしか伝わってこない。
やがて、おじいさんは諦めたのか、スッと消えた。
こういう状況が一番「モヤモヤ」として後味が悪い。
「霊」は想いを伝えたくて来ているのに、「つなぎ役」となる私がうまく「受信」できないと相手に「霊の想い」を伝えてあげられない。
この時もブラジル出身のルームメイトであるA君に「おじいさんの霊が来たよ」
とだけ伝えるか、会話の内容が不明だから何も知らせずにいようか、かなり迷った。
結局、私は伝えることにした。
「おじいさんの霊」がやって来た二日後、ようやくA君が「フロリダ観光旅行」から戻って来た。
旅の話を聴いた後、A君に言った。
「二日前の夜、おじいさんがやって来て、あなたにメッセージを伝えたかったようだけど、ポルトガル語がわからなかった」
「僕のおじいちゃん、二日前に亡くなったんだ。旅先に実家からの連絡があって、そのことを知ったんだ。おじいちゃんは、亡くなる直前まで僕に会いたがっていたらしい」
A君は「おじいさんに会った」という私に驚いていたが、私もA君の話を聴いて驚いた。
たぶん、おじいさんは亡くなってからすぐに孫のA君の旅先まで会いに行ったのだろう。
しかし、どうしても「メッセージ」を伝えたくて、私の所へと来たようだ。
「ポルトガル語」はわからなかったが、私が「こんな感じに聞こえた」と「おじいさんの言葉」を「音」で説明をしたら、A君は少し考えて言った。
「元気で。無理はするなよ・・・だと思う」
100%正解かどうかはわからないがA君は喜んでくれ、私の「モヤモヤ」もスッキリとした。
当時、留学生が犯罪に巻き込まれることも少なくなかった。
この数週間前にもイタリアからの10代の留学生が「銃で数発」撃たれ、下半身不随となる重傷を負った。
彼の乗っていた「レンタカー会社の新車」に目をつけた若者のグループが、「あおり運転」をしながら追いかけ、それに抵抗しながら彼は「語学学校の寮の前」まで戻った。
しかし、車を降りた所で銃撃されたそうだ。
すぐに新車を乗り捨てて逃げていれば、撃たれることもなかったかもしれない。
彼が撃たれた「語学学校の寮」は、以前、私が住んでいた場所だった。
A君のおじいさんも、留学中の孫を心配していたのだろう。
これまで数多くの「霊」と向き合ってきたが、「生前に使っていた言語を使う霊」と「テレパシーを使う霊」との違いは何なのか。
いまだによくわからないが、死後の年数があまり経過していない「霊」の方が、「生前に使っていた言語」で話しかけてくることが多い気がする。
死後100年以上も経っているような「霊」は、「テレパシー」を使う方が多く、「会話・感情・死亡した時期や原因・出身国などの情報」が一気に私の脳や心に入ってくるような感覚で、意思疎通が早くてラクだ。
留学して1年以上が経つと、あらゆる国のルームメイトとの「面白い生活体験」ができたことだし、今度は「一人で生活してみたい」という思いが日に日に強くなっていった。
「一人で住んだら、ゆっくり寝れるかもしれない」という思いもそこにはあった。
しかし、その思いは一瞬で崩されるのだった。
「【未来映像】一人暮らしをしたものの」へと続く。
フロリダにある「ケネディ宇宙センター」に行った時、たくさんの「宇宙食」を買って「お土産」や「自分用のおやつ」にしたことがある。
今では「災害用の保存食」として保管をする人もいるそうだ。
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