人形とご対面
やっと朝晩が涼しくなってきた頃、友達夫婦から家に招待をされ、別の友達と一緒に泊りの用意をして向かった。
自然豊かな場所に建ち、ログハウスのような造りの可愛らしい家だった。
中に入ると木の良い香りがする。
新しく建てた家に友達夫婦が引っ越しをして、まだ半年ほどだった。
友達夫婦が育てた無農薬野菜を使った晩ごはんは、どれも美味しく、遅くまで話しも盛り上がった。
夜中「そろそろ寝よう」と布団を用意してくれた部屋へと向かう。
ドアを開けると5畳ほどの洋室で屋根裏部屋のようになっていて、左側に大きな窓があった。
普段は使っていない部屋なのか、何も置いていなかった。
ただ一つ、部屋の突き当たりにガラスケースに入った高さ30センチほどの人形だけが置いてあった。
私は、人形が苦手だ。
市松人形なのかは不明だが横と後ろの髪が肩まであり、前髪は眉の位置でまっすぐ切り揃えられている男の子の人形で、青い着物を着ていた。
嫌な気配はあったものの友達と二人で寝ることもあり、人形は気にしないようにして寝ることにした。
ごぉぉぉぉぉぉ!!
突然、金縛りと耳鳴りが始まり目が覚めた。
人形が私の首を片手で絞めていて、私の体は寝ていた2階の窓の外側で宙に浮いた状態になっていた。
はぁ!?
急な状況に頭がついていかない。
その間も片手でギリギリと首を絞めてくる。
私は更に首が締まらないよう、宙に浮いてる不安定な態勢ながらも自分の首にくい込む人形の指をこじ開けようとしていた。
しかし、何か違和感がある。
もがきながら部屋の中を見てみると、手前に友達、奥には私が寝ていた。
幽体離脱してるのか!
私の体は布団で寝ている状態だが、私の霊体は首を絞められていた。
幽体離脱は過去にも経験があった為さほど驚きはしなかったが、数メートルも離れた所にある体にちゃんと戻れるのかが心配だった。
それに何故、人形が首を絞めてくるのか?
考えている間にも首は絞められ続けている。
息苦しい中だったが、人形をしっかりと観察してみる。
すると人形の腕に重なって男性の腕が見えてきた。
実際に私の首を絞めているのは、男性の霊だった。
「何故、首を絞めるの?」
私は声を出さずに質問をした。
「この家から出ていってほしい。俺は、この家が気に入っている。祓われたくない」
人形の中から50代くらいの男性が姿を現す。
彼は霊が見える私が家に泊まりに来たことで、もし友達に人形に憑いた霊の話をされ、人形ごと家から追い出されたり、霊となっている自分だけが祓われたりすることを恐れていた。
だが私は、この家に留まらず執着を捨てて、あの世へ旅立つように説得をした。
そして、いつまでも首を絞められているわけにもいかない為、私は心の中で何度か唱えた。
「祓いたまえ、清めたまえ」
これは私が子供の頃に祖母から教わった言葉だった。
お経の一節だと思うが、私の場合、この言葉を唱えると大半の金縛りは解くことができた。
気づくと布団の上だった。
肺いっぱいに空気を吸い込み、無事に自分の体へと戻ってこれた安堵感が広がる中、起き上がって人形を見てみると男性の霊は消えていた。
外が少しずつ明るくなってきており、隣の布団では友達が爆睡。
結局、ほとんど眠れないまま朝を迎え、朝食で友達夫婦に人形の話をした。
家が完成した時に知り合いから人形をもらったものの、洋室にずっと置きっぱなしだったらしい。
いつもなら客間に布団を用意するはずが、この時は客間が使えない状態で人形の置いてあった洋室になったとのことだった。
これも偶然ではなく、必然的なものだろう。
もし私が客間で寝ていたら、人形に憑いた男性霊には気づいていなかっただろう。
男性霊は誰にも気づかれず、ひっそりとあの場所にいることを望んでいたから。
その後、数日間、友達と滞在したが男性霊は二度と現れなかった。
男性霊の要望は聞かず、強引に祓ったような形になったが、友達夫婦のことを思うとこれで良かったのだろう。
九州の友達夫婦を思い出すと、この「いきなり団子」も思い出し、とっても食べたくなる。
中のお芋とあんこ、外側のお餅とが絶妙なバランスで食感も良く、甘すぎない味も良い。
お土産や自分用に買うことが多い。
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