いつものように、保険事務をこなす毎日を過ごしていたある日。
その日は、朝から胸騒ぎがしていて、仕事をしていても集中できずにいた。
胸騒ぎがする時は必ず、何かが起こる。
それは私自身に関することもあれば、家族や友達に関することもあるが、国内や海外で起こる凶事の時もある。
大きな何かが起こる予感と、急に、どうしても明日は休まないといけない、という衝動にかられた。
ちょうど仕事は落ち着いていて、翌週から末日にかけてが繁忙期の為、「休みを取るのは今週中に」と言われていたから、私は思いきって翌日の休暇を申し出た。
突然の申請にもかかわらず、スムーズに休暇が取れてホッとしたものの、まだ胸騒ぎは続いていた。
次の日。
朝6時頃に目が覚めたが、日頃の寝不足を解消する為、また寝なおすことにした。
そして、夢を見た。
晴れた空、目の前には穏やかな海が広がっていて、どうやら漁港に私はいるようだった。
ここは、どこ? 初めて見る景色。
夢を見ながらも、場所について考えている私。
しばらくして、大きく足場が揺れた。
ごぉぉぉぉぉぉぉぉ。
地鳴りとともに、そこらじゅうが揺れて、立っていられない。
地震!
周りからは、物が落ちて割れる音や悲鳴なども聴こえてくる。
とても長く感じられた地震が、ようやく止んだ。
そして、誰かが叫んでいることに気がついた。
「早く高台へ!」
たくさんの人が家から出てきていて、瓦礫(がれき)をよけながら坂道を上がって行く。
私も、できるだけ海から離れる為に走った。
夢の中だからか、思うように前に進まない。
その時、また大地が揺れ始めた。
目の前にいた男性が、誰かの家の玄関を開けて、叫んでいる。
「起きてるか? 津波が来る! 早く逃げろ!」
この地域は漁業が盛んで、夜中に漁をして朝方に戻り、昼間は寝ている人が多いようだった。
人々が互いに声をかけながら、高台を目指していた。
後ろを振り返ると、ビルのように高く立ち上がった波が、こちらに迫って来るのが見えた。
凄まじい速さで、波が次々と建物や道路を破壊していく。
その不気味な音と避難を促すサイレンの音、人々の悲痛な叫び声。
そこで、はっと目が覚めた。
息をしていなかったのか、一気に酸素を吸い込む。
時計を見ると、すでに8時を過ぎていた。
とても現実味のある夢で、身体は実際に坂道を走ったかのように疲労感があり、漁港の景色を思い出すと悲惨な状況に胸が痛んだ。
胸騒ぎの原因は地震と津波であり、それは近いうちに起こるにちがいない、と確信した。
だが、正確な日時やどこの場所で起こるのかが、いくら夢の内容を思い出しても不明だった。
場所などを特定できる目印やヒントが、無かったからだ。
そして、夢を見て6時間ほどが経って、実際に大地震が起こった。
2011年3月11日(金曜日)、14時46分。
東北大震災だった。
その時、私は家でちょうどテレビを見ていて、そのことを知った。
津波が防波堤を越えて、町を飲み込んでいく様子をリアルタイムで見ていたが、それは夢の中の景色と同じものだった。
もし地震の日時や場所が正確にわかっていたら、被害を最小限にすることができただろうか。
ふと、そう思うことがある。
予知夢とは、未来に起こることを夢で体験することだが、今回のように、夢の中で地震や津波を少し体験をしただけで、実際には地震を回避させることも、被害を最小限にすることも、何一つできなかった状況は、もどかしい。
次回、もし予知夢を見るなら、気分がスッキリしたり、笑顔になれるものが良い。
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