身体を乗っ取られる
私が、高校生の時に体験をした話である。
3泊4日だったと思うが、スキー合宿へと行った。
バスの中では、雪景色を見ながら、クラスの友達としゃべりまくり、楽しく過ごしていた私だった。
だが、宿舎の玄関に入った途端、急に気分が悪くなり、その場にうずくまった状態で、一歩も進めなくなった。
突然のことで担任の先生も友達も驚き、私を抱えるようにして、玄関から一番近い食堂の板の間へと連れていってくれた。
熱も身体の痛みも無かったが気分が悪く、目が開けているのがしんどい状態で、私は板の間に敷かれた布団で、いつの間にか眠っていた。
周りの話し声や笑い声で、ふと目が覚めた。
身体は鉛のように重く、起き上がることができない。
食堂では、晩ごはんの時間が始まっていた。
目覚めた私に気づき、先生や友達が、様子を見に話しかけてくれる。
だが、頭の中にモヤがかかっているような感じで考えがまとまらず、目の前にいる先生や友達の声がとても遠くに聞こえ、話そうとしても、声がほとんど出なかった。
お腹は空いているのに気分が悪く、身体を動かそうとすると、一層、気持ち悪さが増した。
今まで経験したことがない症状だった。
部屋割りが決まっていたが、原因のわからない症状の私をクラスメイトと同じ部屋に入れるわけにはいかず、かと言って、他に寝かせる場所もなく、私自身も一歩も動けず、
先生たちも困りはて、結局、食堂の板の間で過ごすことになった。
晩ごはんが終わり、みんな各部屋へと戻っていった。
私は同じ姿勢のまま、トイレやお風呂にも行かず、寝て覚めてを何度もくり返していた。
ざわざわざわ
何かの気配と物音がして、目が覚めた。
だが、身体が金縛りで動かない。
食堂の電気は消され、真っ暗になっていた。
私の布団の周りで、たくさんの気配と何かを話しているような声がする。
しかし、姿は影に包まれていて全然見えない。
大勢の話し声が重なって、何を話しているのかもわからない。
時々、「この娘は・・・」とか「やってきた」と単語が聞き取れる程度だった。
私のことについて話し、たくさんの目が私を見つめて、様子をうかがっているような印象だった。
私は、どのくらいの時間、寝ていたのか。
今は、何時なのか。
モヤがかかったような頭で考えてみても、何もわからなかった。
急に気配が消え、金縛りが解けた。
吐き気がなくなっていて、起き上がれるようになっていた。
私は布団から出て、トイレに行くことにした。
時計を見ると、夜中の2時を過ぎていた。
見回りの先生にも会わず、部屋も廊下も、とても静かだった。
私は長い時間、宿舎の中をあてもなく歩き回った。
そして、布団へと戻って眠った。
二日目の朝、私は再び、気持ち悪さで動けないでいた。
昨日から何も食べていないのに、この日も食べられず、わずかな水を飲むだけで、襲ってくる睡魔に勝てず、ずっと寝ていた。
友達は、スキーを楽しんでいた。
晩ごはんの良い匂いがする頃には、お風呂を終え、満喫した時間を過ごしてきたクラスメイトの顔がそろっていた。
同じ食堂にいるのに、ご飯も食べれず、お風呂にも入れず、ずっと寝たきりの私の所だけ時間が止まり、影に覆われているかのような差があった。
そして夜中がやってくると、私の身体は自由に動けるようになった。
だが、お腹が空いていても、ご飯を用意してくれる人は、夜中にはいない。
先生を起こそうと考えたが、頭の中のモヤは晴れず、先生の居所がわからない。
誰かに声をかけたいと思うのに、誰一人として会わない。
今思えば、私と接触しないように、全員が眠らされていたのだろう。
三日目の朝、気分の悪さに加えて、ご飯を食べていないことで身体に力が入らなかった。
医師の診察を受けても「異常なし」と言われ、薬を飲んでも症状は変わらない。
寝ている時間だけが、長くなっていった。
最終日の晩ごはんは、すき焼きだった。
生徒の歓声やお皿の音などが聞こえる中、私は浅い眠りをくり返した。
夜中には、また私の布団を囲む気配と声がした。
金縛りで動けなかったが、吐き気がマシになっていたことが嬉しかった。
だから、長時間の金縛りでも耐えることができた。
しかし、朝になると身体の症状は戻り、動けない状態になっていた。
出発時間となり、私は友達の肩を借りながら、なんとかバスに乗った。
バスが出発して30分ほどが経った頃、突然、私の身体は軽くなり、通常の状態に戻った。
吐き気が治まり、頭のモヤが晴れ、一気に食欲がわき、持っていたお菓子を手当たり次第に食べまくり、大量の水を飲んだ。
少し前まで顔面蒼白で、ほとんど歩けなかった私の急変ぶりに、周りは驚いていた。
頭がスッキリとして、私は気づいた。
霊にとりつかれると、身体がどうなるかということを。
宿舎にいたのは、雪山で亡くなった大勢の霊だったのだ。
そして、霊感の強い私にすがって来ていて、私を宿舎にとどめる為に、身体を弱らせようとしていたのだ。
もし一人で宿舎に滞在をしていたら、私はあのまま霊に取り込まれ、身体が弱り、餓死していたかもしれない。
しかし、学校からのスキー合宿だった為、手助けしてくれる先生や友達がいたから、無事に宿舎から脱出できたのだ。
宿舎を出て、雪山から遠ざかった為に、霊が身体から離れ、私は元に戻った。
近年、自殺者や事故物件も増えており、霊の数も多くなっている。
頭にモヤがかかったような感覚や記憶がないといった症状、原因不明の体調不良、味覚が変わったりした場合は、霊によって身体に影響が出ているのかもしれない。