【死臭】記憶に残るが、説明に困る臭い
その日、私は一人で「水族館」に来ていた。
20代後半だった私は、海外から一時帰国をしており、蒸し暑いが良い天気の中、水族館で涼しみながら、「カラフルな魚」や「変わった生体の魚」「ジンベイザメ」「マンタ」などを見ながら過ごしていた。
「平日の昼間」ということもあって、館内は人が少なく、とても快適だった。
タイトルは忘れたが、30分程度の「海の生き物を記録した映画」を観る為に「ミニシアター」へと向かった。
「うわっ」
会場に入ると「むせるような臭い」が襲ってきた。
この「独特な臭いの正体」を私は知っていた。
「死臭」だ。
一気に「初めて死臭をかいだ日の記憶」が蘇った。
それは、23歳の頃。
朝、「臭い」で目が覚めた。
「ん!? 何の臭い?」
今までに嗅いだことがない、何とも言えない臭い。
「雨に濡れた土」と「小動物の死骸が腐敗している」のとが合わさったような臭いに感じるものの、実際には、むせて咳き込むような「薬品の刺激臭のような強烈さ」もあった。
何かに似ているように感じる臭いだが、どれとも似ていない、全く嗅いだことがない臭いだった。
しかも、その臭いは、私や母にはわかるのだが、祖母や叔母には全然気づかないものだった。
母と私は、その臭いの出所をいろいろと探してみたが不明で、結局、「家全体」が二日以上も強烈に臭っていた。
母と私は、「その臭い」によって気分が滅入り、食欲が落ちていた。
しかし祖母と叔母は、変わらない生活をしていた。
三日目の朝、相変わらずの臭いの中、私は身支度を済ませて会社に向かった。
出社して朝礼をしている時に「会社の電話」が鳴った。
母からだった。
「病気で自宅療養していた祖母の容態が急変した」との知らせ。
早退し、急いで電車に乗って「病院」へと向かっていたが、道中、ふと「祖母の気配」を感じた。
「あぁ、間に合わなかったか。逝ってしまった。」
病室に入ると、やはりベッドの上には「祖母の亡骸」、その横に微笑んで立っている「祖母の姿」が見えた。
その日、自宅に戻ると「あの臭い」がウソのように消えていて、そこで初めて「死臭」だったことに気づいた。
そして「水族館のミニシアター」でも「同じ臭い」がしていた。
すでに20人ほどが座り、上映を待っていた。
久しぶりに嗅ぐ「死臭」は、やはり強烈だったが、誰一人として「臭い」に気づいておらず、「笑顔で話している親子」や「何かを食べている若いカップルの姿」もあった。
「死臭」が出ているということは、「いつ亡くなってもおかしくない状態」ということだ。
それが家ではなく外出先でなら、その人の近くに私もいると「事件や事故に巻き込まれる可能性」だってある。
だから普通なら「ミニシアター」からすぐに出るべきなのだ。
しかし私は、その上映をどうしても観たかった。
たとえ「死臭」の臭いを嗅ぎながらでも。(笑)
その為、まず私がやらなければならない事は、「死臭を出している人を捜すこと」だった。
上映まで、あと数分。
「祖母の時」は「死臭の出所」がわからなかったが、私は頑張った。
さりげなく、一人一人を嗅いでいく。
すると、見つけた!
40代くらいの女性から「強烈な死臭」がした。
私は、彼女から「一番遠く離れた席」に座った。
そして心置きなく「上映」を観た。
大抵の臭いは、時間が経つと鼻が慣れてきて「臭い」をあまり感じなくなると思うが、「死臭」は、それがない。
30分ほどの上映中も、ずっと強烈な臭いだったが、「海の生き物を記録した映画」はとても良かった。
満足して「ミニシアター」を出た。
「えっ、こんな事もあるの!?」
「私の体」から「死臭」がしていた。
ほぼ全館を見終わっていたから、急いで家へと向かった。
ずっと「死臭」がしている。
電車などの「人が多い場所」では、敏感に「死臭を嗅ぎ取れる人」がいる可能性が高い。
できるだけ「人の少ない所」を通って帰宅した。
母に「ミニシアターでの話」と「私の体から死臭がしている話」を伝えたが、今回は「臭いがわからない」と言った。
「死臭」は、お風呂に入って、いくら体を洗っても消えるものではない。
私の場合は、「臭いの原因を知る必要」があった。
夜、部屋を暗くして「ベッド」に座り、「水族館」で「死臭がしていた女性」を思い浮かべた。
どの人も「周波数のようなもの」を持っている。
意識を集中させると「ラジオのチューニング」を合わせるように自然と「相手の周波数」へと繋がる。
その女性と繋がり、しばらくすると「80代前後くらいに見える女性の霊」が現れた。
「母親」との事だった。
その母親は、生前から「娘離れ」ができない人だったようで、自身が死んでからも「娘がかわいくて、離れられない」と言った。
四六時中、母親は「娘の体」に「憑依した状態」で、その為に「娘の生気」が「母親に吸い取られているような状況」だった。
「このままだと、あなたの娘さんは亡くなってしまいますよ。死臭が出ているんで」と私は伝えた。
母親は、ただ「かわいい娘のそばにいたかっただけ」なのだが、自分が原因で「娘を死に追いやる状態にしてしまっていること」に驚いていた。
渋々ではあったが母親は納得をしてくれた様子で、すっと消えた。
しかし、私の体から「死臭」は消えない。
「いつ頃、消えるのか」と不安に思いながらも寝ることにした。
翌朝。
無事に「死臭」は消えていた。
「母親の霊」が「娘」から離れたのだろう。
たぶん「娘さんからの死臭」も消えて、「元気」になっているはずだ。
「私の祖母」と「母娘」との「2つの体験」以降、「死臭」を嗅ぐことは今のところ無いが、数回、電車の中で「顔に死相が出ている人」を見かけたことがある。
「土気色で生気を感じない顔」をしていた。
そんな時、私はすぐ車両を移ったり、電車を降りる。
「寿命」によって「死臭や死相が出ている人」を助けることは無理だ。
「死臭」も「死相」も「強烈な臭いや見た目」をしているが、気づかない人が多く、「不思議な現象」だと思う。
「死臭」の臭いは、「強烈な感覚」として「記憶に残る」ものの、人に聞かれると「とても説明が難しいもの」でもある。