猫の愛
季節が肌寒くなってきたり疲れている時などに、ふと思う。
「あぁ、猫か犬を触りたい」と。
そして同時に思い出すことがある。
ロサンゼルスで出会った猫のことを。
私が26歳の頃、独身のイタリア系アメリカ人女性が住む高層階のマンションにホームステイをしたことがあった。
私専用の寝室とバス・トイレが完備されており、彼女との共通スペースである広いキッチンやリビングは自由に使って良いとのことだった。
彼女は2匹の猫を飼っていたが不動産の仕事が忙しく、週の4日間は出張などで不在となることも多く、私にとってロサンゼルスで一人暮らしの体験もできる最高の環境だった。
彼女が不在の時は、猫のお世話を任された。
小学生の頃に犬を飼ったことがあったが、猫は経験がなかった。
しかし犬と違って散歩もいらないし、一日の大半を寝て過ごす猫のお世話は楽だった。
「2匹の猫は一度も外に出たことがない」と彼女は言っていたが、広い部屋を駆け回っているのを見ると外に出なくても充分な運動になっているようだった。
ご飯を食べて寝て、遊んでまた寝る。
「なんて、うらやましい生活なのか」と猫を見るたびに思う。
茶系の猫も真っ白な猫も人懐っこく、私に寄って来てくれることに癒された。
その日もリビングのソファーに座り、テレビを見ていた。
私の太ももの上には白い猫が寝ていて、向かいのソファーには茶系の猫が寝ていた。
すると急に2匹がビクッと起き上がり、隣の部屋へと走って行ってしまう。
「急にどうした?」と思っているとバタバタと戻ってきて、リビングのテーブルの周りをグルグル走る。
あれっ、3匹になってる!
よく見ると2匹にじゃれるようにして三毛猫が遊んでいる。
どうやら2匹には、この「三毛猫の霊」が見えているようだった。
「どこから来たの?」と三毛猫に尋ねてみる。
鳴き声の後に簡単な映像のようなものが送られてきた。
この三毛猫は、昔、彼女に飼われていたようだ。
やがて三毛猫は、消えた。
その後も度々、リビングに現れては3匹で遊んでいる姿を目撃した。
やっと彼女が帰ってきて、私は三毛猫の霊の話を伝えた。
すると彼女は私の話に驚き、そして泣いた。
彼女の話によると、数年前に住んでいた家で飼っていた三毛猫だった。
今のマンションへと引っ越す前夜に突然、窓から飛び出し、行方不明になったらしい。
ギリギリまで三毛猫を捜したものの見つからず、引っ越しをした後もずっと気になっていたが捜す手立てがなかったと言う。
二人で三毛猫の話をしていたら足元に現れた。
「今、足元に三毛猫が来てるよ」
私がそう伝えると、彼女は泣きながら三毛猫の名前を呼んだ。
また三毛猫から簡単な映像や想いのようなものが送られてきた。
彼女が三毛猫をとても可愛がっている映像。
窓から飛び出し近くの公園に行った後、戻れなくなった映像。
彼女を捜して歩き回っている映像もあったが、寿命も近くて窓から飛び出したようでもあり、しばらくして公園付近で死んだようだった。
三毛猫は死んだ後、今のマンションに住む彼女のそばに頻繁に来ていたようだ。
彼女が寂しくないように、悲しまないように。
私は彼女に三毛猫からの映像や想いを伝えた。
彼女には霊となった三毛猫が見えていないから来ていることに気づかず、時々、部屋に飾る三毛猫の写真を見ては心を痛めていたそうだ。
彼女は飼っている猫をとても可愛がり、自分の子供のように愛情を注ぐ人だった。
だからこそ三毛猫は霊となっても彼女の所にやって来ていたのだろうし、飼われている2匹の猫も私の時とは違って彼女が部屋にいるとそばを離れない。
猫は愛情を注がれたら、ちゃんと愛情を返せる生き物なのだと初めて実感した出来事だった。
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